たばこは、がんや脳卒中、心筋梗塞(こうそく)、糖尿病など早すぎる死に結びつくような病気のリスクを上げる。このことを、われわれのコホート研究の結果を元に紹介してきた。そこでは、非喫煙者と比べ、喫煙者は何倍病気になりやすいかという表現で健康に悪いことを説明した。
今回は、別の角度から見てみよう。喫煙者でも何ら病気にならず、長生きする人もいれば、非喫煙者でも肺がんになる人もいる。その人にとっては、病気になったか、ならなかったかという、どちらかの結果しかない。しかし、たばこを吸う人と吸わない人では病気になる確率が違う。
自動車の運転の際はシートベルトをすれば死ぬ確率が下がる。株式投資はデータを分析して投資すると、もうかる確率が上がる。同じように喫煙で病気になる確率は上がる。
たばこを吸う40歳の男性の場合、平均寿命以前の75歳までに死ぬ確率は約35%。何らかのがんにかかる確率は約30%で、肺がんにかかる確率は約6%だ。たばこを吸わない人はおのおの23%、20%、1%程度だ。
今後35年間に、自分の身に30%の確率で起こるがんになるという不幸を、20%に減らせるのだから、喫煙者が禁煙の決断をすれば大きな見返りを期待できるのだ。 また保健医療従事者にとっても、100人の40歳の喫煙男性を禁煙させられれば、今後35年間で起こるはずの12人の早世、10人のがん、そして5人の肺がんを未然に防げることになる。
ところで、日本で全頭検査を実施する以前に牛肉を食べた場合、BSE(牛海綿状脳症)のプリオン感染による新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病になる確率は1億2000万人あたり0・1人とされる。 対策として、危険部位除去と全頭検査を行うと、ヤコブ病になるリスクは、おのおの100分の1と300分の1になると推定される。つまり全頭検査は、危険部位除去で極めて低くなったリスクをさらに3分の1に下げる。このように、BSEでは徹底した対策の必要性が議論されているのに比べ、たばこではどうだろうか。
わが国でたばこ対策を進めれば、毎年48万人のがんのうち、9万人のがんを、また、毎年27万人に起きる30〜69歳の早世のうちの5万人の死を予防可能であると試算できる。禁煙やたばこ対策はきわめて大きな見返りが期待できるのである。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター津金昌一郎)
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